ある日、家のちょこちゃん(モルモットの女の子)が言いました。
「お話を聞かせてよ。ちょこはここから出られないんだから、ちょこのためにお話しを聞かせてよ。」
仕方がないので、ちょこのために物語を作ることにしました。
これは、草原に生えた1本の樹と小さなネズミの物語。
岩しかない土地
その場所は、岩しかない場所でした。
長い年月をかけて、風が少しずつ岩を削って、砂になり、その砂がたまって、そこに風に乗った小さな種がたどり着き、それを繰り返し繰り返し、いつの間にか草の生い茂る草原ができました。
小さな樹
ある日、風に乗って小さな枯れ枝が飛んできました。
小さな枝には小さなが種幾つもついていました。
小さな種は、岩の隙間に挟まって、やがて小さな芽をいくつも出しました。
周りは、ひたすら、草原で、そこには花や草が生い茂っていました。
小さな芽は、草に覆われて、みんな大きくなれずに枯れてしまいました。
けれど、1本の芽だけは枯れずに生き残っていたのです。
それから長い年月が流れ、生き残った1本の小さな芽は、茂った草の背丈を超えるくらいの小さな樹になりました。
小さな樹は、一生懸命地面に根を張って、水を吸い上げ、少しずつ少しずつ大きくなっていきました。
地面は岩が多くて、根を延ばすのにも苦労しましたが、それでも、頑張って根を張って、少しずつ大きくなっていったのでした。
時には日照りで、雨が降らないときもありましたが、小さな樹は負けずに草原で生きていきました。
小さなねずみの男の子と小さな樹
ある日、草原に小さな1匹のネズミの男の子がやってきました。
ねずみの男の子は日照りで草の生えなくなった土地から、食べ物の有る土地を一生懸命探して、長い旅を続けてようやく、この草原にたどり着いたのです。
故郷の記憶はうっすらとしか残っていません。
お父さんやお母さん、兄弟たちの記憶もほとんどなくしてしまいました。
この草原にたどり着くまで、大勢いたねずみの男の子の仲間たちは鳥や獣に襲われたり、病気で死んでしまったり…。
小さなねずみの男の子だけが、ようやく、この草原にたどり着いたのでした。
「ああ、やっとたどり着いた。この草原なら、食べるものがたくさんある。」そうネズミの男の子は思いました。
草原は、虫や草などがいっぱいで、小さなねずみの男の子にとっては、ごちそうがたくさんある楽園に見えました。
長い旅を終え、ひもじかったネズミの男の子はとてもうれしくなりました。
「おなか一杯食べれるって、なんて幸福なことなんだろう。」
おなかがいっぱいになった小さなねずみの男の子は、そこに1本の小さな樹が生えていることに気づきました。
「そこの小さな樹さん、この草原に生えている、たった1本の小さな樹さん。僕も、君と同じ。独りぼっちなんだ、でも、僕は、今日から、この草原で生きていく。君と一緒に生きていく。だから、これからよろしくね。」
小さなネズミの男の子は、小さな樹の根元にきて、小さな樹にご挨拶をしました。
小さなネズミの男の子は、たった一人で、とても寂しかったのです。
でも、どんなに寂しくても、生きていかなければなりません。
そんな、小さなネズミの男の子には、草原の中に1本だけある、小さな樹が、自分と同じ、独りぼっちで、でも、それに負けず生きている、たくましい仲間に見えたのです。
小さな樹は、そんな小さなネズミの男の子を黙ってみていました。
小さなねずみの女の子
小さなねずみの女の子は、旅をしていました。
とてもとても長い旅。
生まれた時には旅をしていました。
お母さんは言いました。
「昔は、沢山の食べ物があったのよ。でも、その食べ物が無くなっちゃったの。だから、みんなで食べるものがある場所を探して旅をしているの。」
そのお母さんも、いつの間にかいなくなってしまいました。
世界は小さなねずみにとっては、怖いところです。
鳥や獣に食べられてしまったり、病気になったり、けがをして死んでしまったり。
いつの間にか、小さなねずみの女の子は一人で旅をするようになりました。
でも、もう、歩く力がありません。
小さなねずみの女の子は力尽きて、その場にしゃがみこんでしまいました。
「そんなところでしゃがみこんでいると、鳥や獣に食べられちゃうよ。」
そんな声が聞こえます。
自分の心の声なのか?それとも幻聴なのかしら?
わかっているけど、もう歩けないのです…。
小さなねずみの女の子と小さなねずみの男の子
ある日、小さなねずみの男の子は、小さなねずみの女の子を見つけました。
その子はひどく痩せていて、死んでいるのかと思うくらいでした。
でも、かすかに息をしているのが分かった小さなねずみの男の子は、小さなねずみの女の子に話しかけました。
「そんなところでしゃがみこんでいると、鳥や獣に食べられちゃうよ。」
ねずみの女の子から返事はありません。
小さなねずみの男の子は困ってしまいました。
「僕じゃ、この子を運べない…。」
その時、葉っぱが一枚小さな樹から落ちてきました。
男の子は、その葉っぱに女の子を乗せると、何とか安全な岩の隙間に女の子を乗せたはっぱを引っ張っていきました。
弱っていたねずみの女の子に一生懸命水を飲ませ、少しずつ食事を食べさせ、やがて、女の子は自分で食事ができるくらい元気になりました。
やがて、ねずみの女の子にとねずみの男の子は番になって、沢山の子供ができました。
子供たちは、大人になると、それぞれのいろいろな土地に巣立っていきました。
もちろん、不幸にも大人になる前に鳥や獣に食べられてしまったり、病気やけがで死んでしまったりして、悲しい思いもしましたが、それでも、ねずみの夫婦はその草原で、沢山の子供たちを育てていきました。
ねずみの夫婦は、病気やけがで死んでいった子がいると、小さな樹の根元にいつも亡骸を運んでいきました。
小さな樹はその様子をずっと見ていました。
そして、「君は僕の仲間じゃないよ。独りぼっちじゃないからね。」とちょっと皮肉に思っていました。
昔、小さな男の子だったねずみの男は思っていました。
「いつか、僕が死んだら、この樹の下に眠りたい。僕の亡骸が、土にかえり、死んでしまったこの子たちと一緒に、この樹の栄養になって、この樹が生きている限り、この樹の中で生きていきたい。僕に生きる勇気をくれた、孤独な僕を癒してくれた、この樹の一部になりたい。」と。
昔、小さな女の子だったねずみの女は思っていました。
「いつか私が死ぬときには、この樹の下で死んでいきたい。私を助けてくれた、この樹の下で、いつか土になり栄養になって、死んでしまった子供たちとこの樹と一緒にこの草原を眺められるように。」と。
時が過ぎ、年老いたねずみの夫婦は、その思いの通り、小さな樹の根元で土にかえっていきました。
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